詩 "Ibu Indonesia" (「インドネシアの母」)の一部が、イスラム教への憎しみを伝えているとする意見がある。その文言は、(1) "... sari konde ... lebih cantik dari cadar ..." (「...簪は...イスラムのスカーフより美しい... ; (2) "... suara kidung Ibu Indonesia ... lebih merdu dari alunan azan mu." (「 ...インドネシアの母が歌うキドゥンは...あなたのアザーンの調べより心地よい」である。問題とされているのは、イスラム教の要素がそうでない要素より下に置かれているという点である。本論文は、オースティンの言語行為理論およびグライスの協調の原理 (Sadock 2004: 58-59, Grundy 2000: 70-100) を援用した法言語学的アプローチに基づき、上述の詩にこめられたメッセージを解釈することを目的とする。テクストの分析には文脈も考慮に入れ、マスメディアの言説、インドネシアの政治状況と参与者を詳細に考察する。結論として、詩にはイスラム教を貶めるメッセージはなく、むしろイスラム教徒にとってのイスラムの価値を損なうことなくインドネシア文化の尊重を伝えることが意図されていると考えることができる。